2025.5.13

キュラトリアル・シンポジウム「家鳴」が開催。「見えない存在の残響」を通して、映像メディア、展覧会、地政学のもつれを探求する

映像メディア、展覧会、地政学のもつれを探求するキュラトリアル・シンポジウム「家鳴」が、5月31日と6月1日の2日間、0-eAの主催により恵比寿の東京都写真美術館1階ホールで開催される

キービジュアル デザイン=鈴木哲生(Tezzo Suzuki)

 「見えない存在の残響」を通して、映像メディア、展覧会、地政学のもつれを探求するキュラトリアル・シンポジウム「家鳴」が、5月31日と6月1日の2日間、恵比寿の東京都写真美術館で開催される。

 本シンポジウムは現代美術をかたちづくる言説の流通やその仕組みを問い直すキュラトリアル(*)な視点のもと、アーティスト、キュレーター、美術史家が一堂に会し、言説の断絶や歴史の残滓を掬い上げる議論に取り組む。映像作品の上映、パフォーマティヴな講演、学術的なパネルディスカッションを通じて、東アジアに焦点をあてたスクリーンプラクティス、展覧会史や地政学的な想像力における物質的・情動的な不安定さに対し、キュラトリアルな実践がいかに応答しうるのかを考察する予定だ。

 なお、「家鳴」というタイトルは家の構造体がわけもなく音を立てる怪奇現象を指し、目に見えない力が居住空間を脅やかし、物理的なインフラストラクチャーだけでなく、その内に刻まれた心理的・政治的秩序までもを攪拌する状況を示している。本シンポジウムは、こうした古い体制の軋みを聞きながら、世界を揺るがし続ける亀裂のなかに身を置かざるをえない現在の居場所について問いかける。

*──アートの実践が見る人に関わる仕組み、ことばの流通や意味付けのあり方をめぐる政治性を問い直し、キュレーションという行為に伴う力学を批判的に読み解こうとする学際的な領域。

 5月31日のセッション1「霊魂のテクノロジー」では、第13回ソウル・メディアシティ・ビエンナーレの芸術監督を務めるアントン・ヴィドクル、ルーカス・ブラシスキス、ヘイリー・エアーズの3人による講演と上映会から始まる。さらに「交霊会(séance)としての展覧会」と呼ぶ試みでは、通常の知覚を超えた認識領域との交信を試みてきた人類の長い歴史に着目し、それがアート制作の言語と方法をいかに変容したかを概観。その後、批評家・沢山遼による応答が続き、最後にはMedia City Seoulプロジェクト・ディレクターの權辰 (クォン・ジン)と、東京都写真美術館学芸員で恵比寿映像祭・キュレーターの田坂博子がパネルトークを行う。

 6月1日はセッション2とセッション3が開催。セッション2「『自由世界』の幻想」では、パフォーマティヴな講演と学術的考察を交差させながら、20世紀半ばの東アジアにおいて、文化的かつ美的な文脈の形成がイデオロギーの断層線上にいかにして形成されてきたかに目を向ける。戦中から冷戦への移行期における児童書、知識層向け雑誌、外交資料や写真作品など、争点となるアーカイヴを再訪し、ドキュメンテーション、プロパガンダ、歴史の忘却といった互いに境界が浸透しあう領域を、異なるケーススタディーから検証。ここでは、アーティスト・李繼忠によるパフォーマンス講演や、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ(2019)韓国館キュレーター・金炫辰(キム・ヒュンジン)、台湾のキュレーター/美術史家である郭昭蘭(ゴ・ジャウラン)、アーティスト・藤井光によるパネルトークを開催。

 セッション3「博覧会のレガシー」は、アジア地域の展覧会史における分水嶺として、1970年の大阪万博を取り上げる。先進テクノロジーへの楽観主義を掲げた万博は、同時に近代性に相反するヴィジョンや、変化する政治的連携の現状を明るみに出すとともに、アート、建築、デザイン、文学、科学技術の前衛的な実践者と体制側が協働し、大衆の願望と国家の課題を体現しながら、新たな展示形態が沸きおこる実験場となった。ライター/キュレーターのデビッド・テ、インディペンデント・キュレーターのグレース・サンボー、シンガポール・ナショナル・ギャラリー学芸員のキャスリーン・ディッツィ、そしてライター/研究者の苏佳敏(ソ・ケイミン)がパネルトークに登壇。大阪万博が国外のアーティスト、知識人、キュレーターの習慣に与えた影響を探り、今日の「グローバル」な展覧会制度をかたちづくることとなった契機、国境を越えた交流や言説の転換について論じる。

 なお、本シンポジウムはソウル市立美術館のパートナー事業として、上映会やパフォーマティヴな講演と学術パネルを融合させ、創造的なアンラーニングを推進する0-eAが主催している。