2025.9.20

「正倉院『THE SHOW』」が東京で開幕。伝説の香木「蘭奢待」の香り再現も

「正倉院」とその「宝物」を、これまでとは異なる新しいアプローチで紹介する展覧会「正倉院『THE SHOW』-感じる。いま、ここにある奇跡-」が、宮内庁正倉院事務所全面監修のもと、上野の森美術館で始まった。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、《螺鈿紫檀五弦琵琶》
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 奈良・東大寺旧境内にあり、9000件もの宝物を1300年近く守り伝えてきた正倉院。毎年秋に宝物を一般公開する「正倉院展」は、多くの人々で賑わうことで知られている。その「宝物」をこれまでにない方法で紹介する展覧会「正倉院『THE SHOW』-感じる。いま、ここにある奇跡-」が、上野の森美術館で開幕を迎えた。本展は大阪からの巡回。

 本展の監修は宮内庁正倉院事務所。同事務所所長の飯田剛彦は「正倉院は現代まで勅封による宝物管理がなされているのが大きな特徴だが、それゆえに現物公開の機会は限られるというジレンマがある。この展覧会であらゆる角度から宝物の魅力を味わっていただければ」と語る。

 本展キーワードとなるのは、3Dデジタルデータ、再現模造、そしてアーティストコラボレーションだ。

展示風景より、勅封の再現

国内展覧会初のスクリーン塗料も

 正倉院事務所は宝物の正確な情報を後世に残すため、2019年からTOPPANと協業。最新のテクノロジーを用いて360度から宝物のスキャンを行い、高精細な3Dデジタルデータを取得してきた。

 本展では3Dデジタルデータに演出を施した展示により、宝物の細部や質感をよりリアルに紹介。約12Kという高精細映像を高さ約4メートル、幅約20メートルという巨大スクリーンに映し出すことで、没入感ある鑑賞体験が可能だ。なお、スクリーン塗料には世界で初めてナノ技術を応用して開発された「Immersive Magic Wall」が国内展覧会で初めて導入された。

展示風景より。中央は《螺鈿紫檀五弦琵琶》の再現模造

蘭奢待の香り、どう再現した?

 正倉院事務所では、宝物の素材・構造・技法を忠実に再現し、本来の姿を甦らせることを目的に、「再現模造」の製作を行っている。

 会場には、《螺鈿箱》や《螺鈿紫檀五弦琵琶》など10点以上の模造が並ぶ。詳細な調査研究と見事な技によって生まれた再現模造の数々を目撃してほしい。

展示風景より、《螺鈿箱》の再現模造
展示風景より、《酔胡王面》の再現模造

 なお本展では、伝説の香木である「蘭奢待(らんじゃたい)」の香りも再現された。蘭奢待は全長156センチ。東南アジアに分布するジンチョウゲ科アクイラリア属の切り株などに樹脂や精油が沈着してできた香木で、いまも微かに香りを維持している。歴史的に織田信長や足利義政、明治天皇らを魅了してきたこの蘭奢待。香りの成分を分析し、聞香し、木材を観察することで実現した香りを、会場で実際に体験してほしい。

展示風景より、蘭奢待のレプリカ。周囲に香りのサンプルが設置されている

 また東京会場のみの展示としては、「国家珍宝帳」全紙14メートルの原寸大再現にも注目だ。

「国家珍宝帳」の原寸大再現

アーティストたちが見せる正倉院の魅力 

 正倉院宝物を現代に接続させるものとして、アーティストたちとコラボレーションにも注目だ。

 デザイナーとしても活動する篠原ともえは、正倉院宝物の「いまに通じる美」に着想を得て、ペルシア風の水瓶「漆胡瓶(しっこへい)」をモチーフに伝統と現代を融合させた服飾作品を制作。

展示風景より

 ミュージシャンで音楽プロデューサーの亀田誠治は、様々な録音技術と音楽的な展開を掛け合わせ、昭和20〜30年代に録音された琵琶や尺八などの宝物の音源をいまに響かせる。

展示風景より

 また写真家・瀧本幹也は正倉院を現代写真家の視点で切り取った作品を発表。陶芸家・絵付師の亀江道子は宝物の文様を昇華させた陶芸作品を生み出した。

展示風景より
展示風景より

 正倉院が持つ魅力を多様なコンテンツで見せる本展。セットで秋の正倉院展にも訪れるのがベストだろう。