まちに根付く手仕事文化に触れる
このまちの「手仕事文化」に触れる機会もつくられた。「白老の手仕事展 ウタルニ ~仲間とともに。刺しゅうにまつわる女性の手仕事」には11組が参加。ウタルニはアイヌ語で「仲間がいつもいるところ」を意味する。多くの刺しゅう作家はサークルを主宰し、アイヌ文化の伝承に取り組んでいる。会場では作家が実演しており、暮らしと手仕事が結びついていることを肌で感じる場となっていた。
本展の企画者である、一般社団法人白老おもてなしガイドセンターの松本曜子は次のように語る。「豊かな自然とともに、この地で受け継がれてきた『アイヌ紋様』と、それを守り伝える『伝承者』のみなさんが守り伝える文化を感じていただきたい」。
「ウタルニ ~仲間とともに。刺しゅうにまつわる女性の手仕事」展示風景より 撮影=高田賢人(BY PUSH) 日常のなかで行われる手仕事は、視野を世界へと広げることでより理解が深まる。白老では、人種や文化、価値観、老若男女が共存共栄できる「多文化共生のまち」をスローガンに掲げており、その願いを込めて、2017年から、有志の町民団体であるみんなの心つなげる「巨大パッチワーク」の会(2017年8月設立、2020年解散)がアイヌ紋様刺しゅう入り巨大パッチワークづくりを行ってきた。同会場では「巨大パッチワーク〜白老と、世界の人々と紡ぐ文化の手しごと」と題し、アイヌ文化伝承者である岡田育子、河岸麗子の2名が中心となり制作した3種のパッチワークを鑑賞できる。パラグアイの伝統刺しゅうや台湾の織物とアイヌ紋様刺しゅうを組み合わせた作品のほか、JICA研修生との交流によってウズベキスタン、ブラジル、カンボジア、カメルーン、パラグアイの布が集められ、それをつなぎあわせたパッチワークが展示された。
「巨大パッチワーク〜白老と、世界の人々と紡ぐ文化の手しごと」展示風景より 撮影=高田賢人(BY PUSH)土地を移動しながら変化する装置
地元作家に焦点が当たるいっぽうで、白老町を拠点にアートプロジェクトの企画等に取り組む一般社団法人SHIRAOI PROJECTSの声かけのもと、オランダ・アムステルダム在住のアーティスト・渡部睦子も参加した。渡部は、「手仕事文化」に通じる視点を持ち、衣・食・住をテーマに、土地の人々と語らい、共に手を動かすプロセスを重視したコミュニケーションの「場」を生み出してきた。
2023年に白老を訪れたことをきっかけに、翌年ルーツ&アーツしらおいに参加。今年は夏に白老の港で開催されたイベント「SHIRAOI Beach&海の家」で作品を制作し、その後、ルーツ&アーツしらおいの会場に移設。さらに10月には札幌にあるモエレ沼公園でこの作品が再構成される予定だ。
白老の工務店の協力で単管を組み、そこにネットを張り、海岸で見つけた浮きなどを吊り下げた構造物。その中央に設置されたハンモックは、漁師から学んだ編み方でつくられ、渡部はこれを「サバイバルネット」と呼ぶ。「着ることができ、寝ることができ、魚を獲ることもできる」網なのだという。場をつくり、人と学び合いながらまちを理解する過程で、その場自体も変化していく。夜には明かりがともり、土地を移動する装置を象徴するかのように、船のシルエットが浮かび上がる。
渡部睦子《「星見るひとたちと出会う旅」in 白老》 撮影=高田賢人(BY PUSH)
サバイバルネットで制作したハンモックに腰掛ける渡部睦子 撮影=筆者