2025.10.9

進化したJW ANDERSON。新たなロンドン旗艦店は現代の「驚異の部屋」?

ファッションデザイナー、ジョナサン・アンダーソンが率いる「JW ANDERSON(JW アンダーソン)」は、ファッションアイテムとともにアンダーソン自身のキュレーションで選ばれたホームウェアなども取り扱うブランドとして大きな進化を遂げた。ロンドン・ファッションウィーク中にロンドン旗艦店でお披露目された新コレクションをレポートする。

文=坂本みゆき

JW ANDERSON ロンドン旗艦店の店内風景 courtesy of JW Anderson
前へ
次へ

再定義に合わせてロゴや店舗インテリアも一新

 JW ANDERSON(JW アンダーソン)のロンドン旗艦店は歓楽街・ソーホーのど真ん中にある。世界中のハイエンドブランドが軒を連ねるボンドストリートやリージェントストリートから歩けるほどの至近とはいえ、周辺はレストランやカフェ、バーがひしめき合い、瀟洒な有名ブランド街とは大きく異なる熱量とパワーで満たされたロケーションだ。

 このたびの大きな変革に合わせてブランドのフォントも刷新、スリムになってより洗練され存在感あるものとなった。店舗も新たなストアコンセプトのもとに再構築された。手がけたのは建築事務所Sanchez Benton(サンチェス・ベントン)。JW ANDERSONの新イメージを体現するかのように、包み込むような懐かしさを感じさせる、温かみのある素材と色彩で心地よい空間に仕上がっている。

JWアンダーソン ロンドン旗艦店の店内風景 courtesy of JW Anderson

力強いキュレーションの定義

 キュレーションとは個人的な見解や美的な嗜好、それぞれの文化的な歩みから生み出され、直感や本能に導かれながら調和するものとアンダーソンは位置付けている。そして一見無関係だと思われるものすべてを感性と視点を通じて織り込み一つの広大な世界へと昇華していく。そのようなキュレーションの手法は、彼がもっとも愛するクリエーティブ作業のひとつという。

 新しいJW ANDERSONを構成しているのは、そのような過程を経て選び抜かれた品々だ。ファッションアイテムはこれまでのクラシックピースにひねりを加えてアップデートし、それらとともにアンダーソン自身が厳選したクラフトマンシップを強く感じさせるユニークな品々を店内に並べる。ロエベのクリエーティブ・ディレクター時代の2017年には「ロエベ・クラフトプライズ」をスタートさせるなど、人間の手が作り出す逸品に深い造詣を持ち深く愛する彼ならではと言えそうだ。そしてファッションとそれら品々が一堂に介するこの店舗は現代の「Cabinet of Curiosities(驚異の部屋)」でもある。

JWアンダーソン ロンドン旗艦店の店内風景 courtesy of JW Anderson

世に送り出した幻のカップ&ソーサー

 店の中に足を踏み入れて、まず目に入るのはJW ANDERSONとウェッジウッド、ルーシー・リー&ハンス・コバー財団の三者によるコラボレーションだろう。20世紀の偉大な陶芸家ルーシー・リーのデザインによる、ウェッジウッドのシグネチャーともいえるジャスパーウェアに白いラインを施したカップ&ソーサーだ。

ルーシー・リーがデザインしたJW アンダーソン x ウェッジウッドのカップ&ソーサー。紅茶用とコーヒー用の2種類がある courtesy of JW Anderson

 リーはオーストリア、ウィーン出身で1930年代後期からはロンドンを拠点に活躍。優美で力強い作品で知られている。アンダーソンはリーの長年のファンで、彼女の陶芸品を数多く所有するコレクターでもあるという。このカップ&ソーサーは1964年にリーがウェッジウッドのためにデザインしながらも、実際に世に送り出されることのなかったものだ。アンダーソンはオークションで見つけた古いカタログにこのデザイン面を発見。今回その製品化の後押しをした。リミテッドエディションとしてJW ANDERSONの旗艦店、JW ANDERSONの公式サイトのみでエクスクルーシブに扱う。

「ルーシー・リーがずっと実現を願っていた、このコラボレーションを讃える機会となりました。本当に素晴らしいのは、ウェッジウッドが彼女の思い描いた通りのデザインを実現してくれたことです」とアンダーソンはプレスリリースを通して語っている。この収益はルーシー・リー&ハンス・コバー財団を支援に使われ、アーカイブ資料の保存やデジタル化などに充てられる予定だ。

 また、アンダーソンがコレクションしていた品のなかから選ばれた、5世紀のギリシャの陶器にインスパイアされたペアマグも登場している。こちらもジャスパーウェアでつくられており個数限定での展開で、ブルー&サクソンブルー、チョコレートブラウン&ブラック、カネアリーイエロー&ミモザイエローの組み合わせがある。

ツインマグは日本ではウェッジウッドの公式オンラインストアから購入が可能だ courtesy of Wedgwood

服とともに並ぶ、数々の手仕事の名品

 店内のあちこちに置かれたスコットランドの建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュのデザインをスコットランド産オーク材で復元したランプやスツール、イングランドのイーストサセックス州を拠点とする職人ジェイソン・モッセリによるアームチェア「ホープ・スプリングス・チェア」もその重厚さで存在感を存分に発揮している。

JWアンダーソン ロンドン旗艦店の店内風景 courtesy of JW Anderson

 味わい深いアンティークやヴィンテージの品もある。コウモリやブドウの葉をかたどった古いシルバーのデキャンターレーベルはレザーのキーホルダーや小物とともにショーケースに収められているのがユーモラスだ。丁寧に手入れされた古い園芸道具の数々は、JW ANDERSONのロゴが刻印されてオブジェのように壁にディスプレイされている。

レザーグッズとともに並ぶアンティークのデキャンターレーベル 撮影=筆者
コウモリ型のデキャンターレーベル Courtesy of JW Anderson
古い園芸道具のディスプレイ 撮影=筆者

 食品もコレクションの一部となっている。ノーフォーク州に位置するマナーハウス、ホートン・ホール・エステートで採取された生産数限定の貴重なハチミツ、サンダーソンのコーヒー好きにあやかってブレンドされたロンドンのティーハウス、ポストカード・ティーのユニークなコーヒーフレーバーの紅茶などだ。

棚の上に並ぶ、ホートン・ホール・エステート産のハチミツ 撮影=筆者
コーヒーフレーバーの紅茶 courtesy of JW Anderson

 これらのキュレーションにあたってアンダーソンを導いているのは、驚くほど率直な「自分が好きなもの、そばに置きたいと思うもの」という信念だという。ファッション、デザイン、手工芸品をこよなく愛し、現代はディオールのクリエーティブ・ディレクターを務めるアンダーソンの美意識を強く感じさせるそれらの品々は興味深く、見ていて決して飽くことはない。

  新たな幕開けとなった今シーズンのルックブックには、同ブランドの服を身につけたアンダーソンの親しい仲間たちやコラボレーター、縁のある人々が登場して彩りを添えている。彼らは時にアンダーソンがキュレーションしたアイテムとともにフレームに収まっているのもウィットに富んでいて楽しい。

Resort 2026コレクションのルックブックより。古い銅製のじょうろやアイリッシュリネンのティークロスなどもアンダーソンによって選ばれた品だ courtesy of JW Anderson
Resort 2026コレクションのルックブックより。古い銅製のじょうろやアイリッシュリネンのティークロスなどもアンダーソンによって選ばれた品だ courtesy of JW Anderson

 近年、ハイエンドなファッションブランドがライフスタイルグッズを店頭に並べているのは珍しいことではない。しかし、ここまでデザイナーの意志と嗜好を反映し、愛情を深く感じさせる品を揃えた店はそう多くはないのではないか。ますます進化を遂げていくであろう今後にさらなる期待が高まる。