「おさんぽ展 空也上人から谷口ジローまで」(滋賀県立美術館)レポート。散歩を起点に見る多様な表現
滋賀県立美術館で開催中の「おさんぽ展 空也上人から谷口ジローまで」をレポート。

滋賀県立美術館で開催中の「おさんぽ展 空也上人から谷口ジローまで」は、誰もが経験する「散歩」を起点に、宗教的実践から都市文化、そして現代漫画まで、美術の中に描かれた歩行の表現を一望する好企画である。
本展は、第79回国民スポーツ大会および第24回全国障害者スポーツ大会が滋賀県で開催されることを記念して構想された。当初はスポーツ全般を扱う展覧会も検討されたが、美術館として競技を専門的に扱うのは難しい。そこで身体を動かす行為のなかでももっとも普遍的で、特別な訓練を要さず、誰にとっても身近な「散歩」に焦点をあてることで、スポーツ大会記念と美術館企画の双方を自然に接続することができた。
滋賀県立美術館の立地もまた、このテーマと深く響き合う。同館は大津市の緑豊かな公園内にあり、日々多くの市民が周囲の遊歩道を散歩している姿が見られる。来館者にとって美術館は展示を鑑賞するだけでなく、自然を歩く体験と分かちがたく結びついた場所である。館内を巡ること自体が「アートさんぽ」となり、展示と実際の散歩が相互に呼応する。そうした環境を背景に、「散歩」を主題とした企画はごく自然に説得力を持つ。

展示は重要文化財2件を含む74点で構成される。中世仏教美術から江戸時代の絵画、近代日本画、西洋絵画、さらには現代アートや漫画原画まで、実に幅広いジャンルを「散歩」という一点でつないでいる。この発想自体が非常に新鮮であり、美術館における展示の可能性を拡張する挑戦的な試みといえる。
本展は全7章で構成されている。日常の散歩風景に始まり、自然の中をそぞろ歩く喜び、都市を歩く人々の姿、さらには宗教的修行としての歩行へと視点が広がっていく。さらに動物や妖怪までもが歩む場面が描かれ、散歩がもたらす出会いや発見を経て、最後には未来や創造へとつながる自由な歩みが示される。歩くという単純な行為が、時代やジャンルを超えて多様な意味を帯びてきたことを、順に体感できる構成である。