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2025.10.15

「作家の現在 これまでとこれから」(東京都写真美術館)開幕レポート。写真表現を拡張してきた作家らの軌跡をたどる

東京都写真美術館で、総合開館30周年記念「作家の現在 これまでとこれから」がスタートした。会期は2026年1月25日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、志賀理江子の作品群
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 東京・恵比寿の東京都写真美術館で、総合開館30周年記念「作家の現在 これまでとこれから」がスタートした。会期は2026年1月25日まで。担当学芸員は伊藤貴弘(同館学芸員)。

 本展は、タイトルの通り、国内外で顕著な活躍を見せる作家の現在の活動を、同館コレクションとともに展示。いまなお活動を続ける作家らの「進行形」のすがたに触れることで、表現の多様性とその変遷をとらえる機会を創出するものとなっている。出品作家は、石内都、志賀理江子、金村修、藤岡亜弥、川田喜久治。

 開幕に先立ち、東京都写真美術館 事業企画課長の丹羽晴美は次のように語る。「同館には3万8000点ものコレクションがあるが、そのうち現在も国内で活躍する存命の作家はかぎられている。また、彼ら/彼女らの“オンゴーイング”の活動は主にギャラリーで発表されており、(美術館で見ることができないのは)残念だと感じていた。今回のように、同館のコレクションとともに作家らの新作をご覧いただくことで、美術館が生きた場になると感じている」。

出展作家。左から石内都、志賀理江子、金村修、藤岡亜弥、川田喜久治

 展示室の白い壁面に浮かぶように配置されるのは、石内都(1947〜)が原爆で亡くなった人々の遺品を撮影した「ひろしま」シリーズだ。石内はこのシリーズを2007年より毎年撮影しており、今回は同館のコレクションに加え、新たに撮影された5点を発表している。

 体調を崩し、今年3年ぶりに広島へ赴くことができたという石内。現在はライフワークとして続けるこのシリーズについて、次のように語った。「当初は以来で撮影していたが、広島に出会ってから人生が変わった。これらの遺品コレクションはだんだん少なくなっていくが、この『80年の時間の塊』を私が撮り続けなくてはと思っている」。

展示風景より、石内都の「ひろしま」シリーズ
石内都

 石内の作品群から連なるようにして展示されるのは、志賀理江子(1980〜)による東北を撮影したシリーズだ。「カナリア」(2006)「螺旋海岸」(2011)といったコレクションから、今年撮影された新作までが構成されている。

 今回ピックアップして展示される作品は、主に志賀が東北に移り住んでからの20年間に撮影されたものだ。2011年の震災を経て、制作への向き合い方にも変化があったという志賀。これらの作品を通じて、「復興とはなにか?」といった大きな問いや、その問題が孕む内実についても、アプローチを続けているという。

展示風景より、志賀理江子の作品群
志賀理江子。現在は同地にて、若手の作家らとともにチームで撮影を行っているという。「チームで動くことで“場ができる”」とし、その重要性についても語ってくれた

 キャリアの初期より都市風景をモノクロで撮影してきた金村修(1964〜)は、その初期作品から最新作までを展示。作家としての軌跡を見通すことができる展示構成となっている。一貫した手法を用いてモチーフ撮影をしながらも、シリーズごとに実験的な試行錯誤が見られる点に注目したい。

 金村は作品を通じて自身のキャリアを振り返りつつ、次のように語る。「最近は制作で失敗することがなくなったので、あえて負荷をかけるような取り組みを行っている。映画などの創作物を見ると影響を受けるタイプなので、それが作品にも表れている」。

展示風景より、金村修の「本日の日本」シリーズ
展示風景より、金村修《無題》(2005)
金村修

 ニューヨークでの滞在を経て、現在は広島市内に移住した藤岡亜弥(1972〜)は、同館コレクションである「川はゆく」シリーズとあわせて、2018年より撮影し、自身のSNSで投稿し続けられた「Hiroshima Today」シリーズを展示している。

 「カメラを持って街を歩くと、どうしても“ヒロシマ”の表象を追ってしまい、素直に撮影できなくなった時期がある」と作家としての苦悩を打ち明けた藤岡。80年前に起こった広島への原爆投下から地続きとなる現在において、同地の人々はどのように過ごしているのだろうか。藤岡の作品は、現代の広島を生きる人々の何気ない営みを浮かび上がらせるものとなっている。

展示風景より、藤岡亜弥の「川はゆく」シリーズ(2013–17)
展示風景より、藤岡亜弥の「Hiroshima Today」シリーズ(2018-25)
藤岡亜弥

 戦争の傷跡や記憶をたどる「地図」や戦後から昭和期の終わりを見届けた「ラスト・コスモロジー」、高度経済成長期の様子をとらえた「ロス・カプリチョス」などのシリーズ作品で知られている川田喜久治(1933〜)は、同シリーズやほかのコレクション作品に加え、インスタグラムで発表し続けている近作も展示している。長きにわたり撮影を続けながらも、新たなテクノロジーを受容し、自身のスタイルへと昇華していくその姿勢は、若手作家らにとっても指針となりうるだろう。

展示風景より、川田喜久治の「地図」シリーズ(1959-65)
展示風景より、川田喜久治の「ルートヴィヒⅡ世の城」シリーズ(1969)
川田喜久治

 本展は、同館コレクションに名を連ねる作家のうち、現在も活動を続けながら写真表現を拡張してきた作家たちの軌跡を改めてたどる場となっている。「写真を撮影する」ということが一般化し、その意味合いが多様化する現在において、作家らが追求し続けた創造の軌跡を俯瞰できる貴重な機会と言えるだろう。

 なお本展は、1月2日、3日に無料で鑑賞することが可能となっている。年始の休みを利用して訪れるのもよいだろう。