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2025.10.4

「静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝」(静嘉堂@丸の内)開幕レポート。「国宝」をキーワードにコレクションを考える

東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、大阪・関西万博を記念した展覧会「修理後大公開!静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝」が開幕した。会期は12月21日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、左から菊池容斎《呂后斬戚夫人図》(1643、天保14)、《馮昭儀当逸熊図》(1841、天保12)、謝時臣《四傑四系図》(1551年、嘉靖30)
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 東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、大阪・関西万博を記念した展覧会「修理後大公開!静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝」が開幕した。会期は12月21日まで。

 本展は、同館が所蔵する東洋絵画の逸品が勢ぞろするとともに、大阪・関西万博にちなみ20世紀初頭の博覧会に出品された岩﨑家(静嘉堂)所蔵の琳派や肉筆浮世絵、近代絵画などのほか、国宝から重要文化財、重要美術品を紹介。さらに「未来の国宝」と題して菊池容斎らの巨大絵画なども展示されるものだ。

展示風景より、伝 周文《三益斎図》(1418、応永25)

 会場は全4章構成。第1章「岩﨑家(静嘉堂)と博覧会」では、岩﨑彌之助・小彌太が「第四回内国勧業博覧会」(1895)、「日英博覧会」(1910)、「波斯敦(ボストン)日本古美術展覧会」(1936)、「伯林(ベルリン)日本古美術展覧会」(1939)に出品された文物の数々を紹介。

展示風景より

 京都で開催された「第四回内国勧業博覧会」は、岩﨑家所蔵の野口幽谷の代表作《菊鶏図屛風》(1865、明治28)をはじめ、東西の日本画家による屛風絵が共演したという。

展示風景より、野口幽谷《菊鶏図屛風》(1865、明治28)

 ほかにも本章では「日英博覧会」に出展された山本森之助《濁らぬ水》(1909)や、「波斯敦日本古美術展覧会」(1936)に出展された酒井抱一《麦穂菜花図》(19世紀前半、江戸時代)、「伯林日本古美術展覧会」に出展の伝 尾形光琳《布引滝及び鶏図》(18世紀初期、江戸時代)などが紹介され、岩﨑のコレクションの充実した内容を改めて感じられる。

展示風景より、右が酒井抱一《麦穂菜花図》(19世紀前半、江戸時代)
展示風景より、山本森之助《濁らぬ水》(1909)

 第2章「詩画一致の系譜」では、中国の詩画一致の思想のもと、画中に作者や作品に関わった人々の賛(題や詩文)が添えられた中国や日本の絵画を紹介。これらは彌之助・小彌太が蒐集し、近年同館が重点的に修理事業を継続しているものも多い。

展示風景より

 1970年の大阪万博では「万国博美術展」が開催され、静嘉堂からは水墨画の優品が7件出展された。とくに倪元璐《秋景山水図》(17世紀、明時代)や陳紹英《夏景山水図》(1653、順治10)、《竹林山水図》(14世紀、明時代)、王健章《川至日升図》(17世紀、明時代)といった、明清時代の重要文化座となっている名品は目を見張る。

展示風景より、右から陳紹英《夏景山水図》(1653、順治10)、横山雲南《模本「夏景山水図」》(1858、安政5年)

 第3章「未来の国宝!謝時臣『四傑四系図』と菊池容斎の巨幅」では、「未来の国宝」として、中国明清時代の巨大絵画と幕末明治の画壇の重鎮で、明治中後期に隆盛する「歴史画」の先駆者でもあった菊池容斎による巨大絵画を展示。なお、これは前期展示となる。

 明代中期の文人画家・謝時臣の《四傑四系図》(1551年、嘉靖30)は、四季山水でありながらも、各幅それぞれに中国古代の英傑4人が描かれている。誰が主役かが容易に理解できる視線誘導を考慮した構図や、人物の豊かな表情など、謝時臣の傑作といえる。

展示風景より、謝時臣《四傑四系図》(1551年、嘉靖30)

 いっぽう、江戸末期から明治に活躍した菊池容斎の《呂后斬戚夫人図》(1643、天保14)と《馮昭儀当逸熊図》(1841、天保12)は、日本の掛軸としては異例の大幅であり、中国前漢の傑女の説話に取材している。政敵となり得る女の四肢を切断する残虐な呂后と、襲い来る熊に一人立ちはだかる馮昭儀が描かれた両作は、奇怪かつ残虐で独特の味わいがある画題が印象に残る。

展示風景より、左から菊池容斎《呂后斬戚夫人図》(1643、天保14)、《馮昭儀当逸熊図》(1841、天保12)、謝時臣《四傑四系図》(1551年、嘉靖30)

 第4章「渡辺崋山と彌之助・小彌太父子」では、岩﨑父子にまつわる静嘉堂ならではの未来の国宝、そして宋元の美術・古典籍で締めくくられる。こちらも前期の展示となる。

展示風景より、左から渡辺崋山《游魚図》(1840、天保11)、《芸妓図》(1838、天保9)、《溪山細雨図》(1838、天保9)

 とくに注目したいのは、文人画家・渡辺崋山の名幅《月下鳴機図》(19世紀前半、江戸時代)と、それを小彌太が丁寧に摸写し、松方正義が詩を添え双幅とした作品を紹介。小彌太の画の才覚が垣間見える一品だ。ほかにも崋山の名画の数々が一堂にそろうのも圧巻といえるだろう。

展示風景より、左から岩﨑小彌太、松方正義《模本「崋山筆月下鳴機図」》(20世紀前半、明治末〜大正前期)、渡辺崋山《月下鳴機図》(19世紀前半、江戸時代)

 万博と国宝というふたつのキーワードを巧みに組み合わせながら、静嘉堂の潤沢なコレクションに新たな視点を与える意欲的な展覧会となっている。