2025.10.11

「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」開幕レポート。五感を刺激するアートの祭典

東京・天王洲運河一帯で「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」が開幕した。会期は10月13日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、左から手塚愛子《必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)-04》、《親愛なる忘却へ(美子皇后について)-01》(2019)
前へ
次へ

 アートを軸に、音楽、ファッション、ライフスタイルなどの隣接するカルチャーが一堂に会する領域横断型のアートフェスティバル「MEET YOUR ART FESTIVAL」。4回目の開催となる「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」が東京・天王洲で開幕した。会期は10月13日まで。会場の様子をレポートする。

 今年は全体で100名以上のアーティストが参加している。なかでもアートエキシビション「Ahead of the Rediscovery Stream」では、昨年急逝した故・山峰潤也の意志を受け継ぎつつ、身体的かつ没入的な展覧会を目指し、アーティスティック・ディレクターに森山未來、キュレーターに吉田山と渡邊賢太郎、さらにアドバイザーとして秋元雄史を迎えた。参加作家は、和泉侃、折元立身Chim↑Pom from Smappa!Group×小室哲哉、手塚愛子、MANTLE(伊阪柊+中村壮志)、八木良太ほか。

展示風景より、『遊』全50巻の展示

 アーティスティック・ディレクターを務める森山は、本展の目指したところを次のように語る。「アートに触れてシンプルに楽しむと同時に、日本という国の持つポテンシャルを見直すということが本展のひとつのコンセプトになっている。僕は編集工学を提唱した故・松岡正剛に影響を受け、日本というものをどのようにとらえるのか、という問いについて常に考えてきた。松岡さんから僕が受け取った薫陶が、本展で響きあっていると思う。五感を想起させることを意識した展覧会なので、ぜひ現地で体感してほしい」。

メディアブリーフィングより、左から古後友梨(MEET YOUR ART共同代表)、加藤信介(MEET YOUR ART代表)、森山未來(アートエキシビション アーティスティック・ディレクター)、古屋留美(東京都生活文化局長)、吉田山(アートエキシビションキュレーター)、渡邊賢太郎(アートエキシビションキュレーター)

 「Ahead of the Rediscovery Stream」は寺田倉庫G3ビルの6階が会場となる。最初に展示されるのは、八木良太と和泉侃の作品だ。人間がどのように世界を知覚しているのかを音響、映像、インスタレーションなどを通じて問いかけてきた八木は、2枚のパンチメタルで意図的に「モアレ」を発生させる円状の平面作品《Time Resonance》(2020)と、塔状に積み上げたスピーカーから金属的な水滴の音が響く《Stupa》(2018-25)を組み合わせて展示。

展示風景より、奥から八木良太《Time Resonance》(2020)、《Stupa》(2018-25)

 そして作品の展示場所には、嗅覚に訴える気配を作品としてつくり出す和泉による、原材料を育て調香した2つの香りによって対照的な世界を表す作品《香りの展示に関する研究》(2025)が漂う。両作家が手がけたこの世界は、本展が視覚のみならず多様な感覚を刺激する展覧会であることを端的に示している。

 昨年2月に逝去した折元立身も参加作家のひとりだ。自身の母親と制作した介護をアートとしてとらえる代表作「アートママ」シリーズは、第49回ヴェネチア・ビエンナーレ(2001)で広く世に知られることになった。生活空間とアートを同じ位相に置く折元は、顔にパンを巻き付けた人々が練り歩く「パン人間」のパフォーマンスでも知られる。

展示風景より、折元立身《パン人間》(2025)

 本展では同作を映像や写真で展示するほか、会期中には折元が亡くなって以来初の再演が行われる。作家亡き後だからこそ、属人化を超えて折元の行動を伝えていく試みといえるだろう。

展示風景より、折元立身《パン人間》(2025)

 東京とベルリンを拠点として、国内外で活躍する手塚愛子。織物の糸を解いて構成されるその作品は、歴史の重層をひも解き新たな視座を与える可能性を提示する。本展では明治以降の近代化によってもたらされた西洋の価値観と、そのなかで生まれた芸術や文化のねじれを体現するかのような作品が並ぶ。

展示風景より、左から手塚愛子《必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)-04》、《親愛なる忘却へ(美子皇后について)-01》(2019)

 例えば、明治期に洋装化を進めた美子皇后を題材にした《親愛なる忘却へ(美子皇后について)-01》(2019)は、皇后が詠んだ「外国のまじらひ広くなるままに おくれじとおもふことぞそひゆく(外国との交流が増えるたびに遅れてはなるまいという思いが強くなる)」という歌などを織り込んだ巨大なジャカード織のマントをトルソーへ巻き付けた作品だ。そのシルエットはどこか平安時代の十二単を思わせ、西洋文化追従への焦り、失われた日本の王朝文化が、アンビバレントに同居する。

展示風景より、手塚愛子《親愛なる忘却へ(美子皇后について)-01》(2019、部分)

 ほかにも欧米の遠近法により描かれた風景画のタペストリーのうえに、鎖国期の日本地図を重ねて解きほぐし《学ぶことと戻れなさについて(遠近法)》(2025)や、明治以降、日本文化をモチーフにした輸出産業として人気を博した薩摩ボタンをモチーフに、演じられた日本像とそれを生み出した権力や情勢を浮かび上がらせた《必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)-04》などが会場では並ぶ。一見すると非常に美しい手塚の作品群だが、そこには日本の近代化における複雑な状況と、その上に立つ現代日本の捻れがたち現れている。

展示風景より、手塚愛子《学ぶことと戻れなさについて(遠近法)》(2025)

 本展のアーティスティック・ディレクターを務める森山未來は「近江ARS(アルス)」で編集工学を提唱した思想家・松岡正剛と出会った。森山は『日本という方法』や『擬』といった著書で松岡が提唱した「別様に世界を見る視点(別様の可能性)」に影響を受け、自身の身体表現に「うつわ」や「間」といった日本的感性を取り入れてきた。

展示風景より、『遊』全50巻の展示

 本展では『遊』全50巻の展示や松岡の音声体験に加え、松岡が森山に宛てた「アルス・コンビナトリア」を起点とした写真作品《湖独の舞》を紹介。森山が実践してきた「言語と身体の往還」を、本展のコンセプトと共鳴させる。

展示風景より、濱田祐史《湖独の舞》(2023)

 伊阪柊と中村壮志によるユニット・MANTLEは、地球規模のエネルギーをテーマに作品を制作してきた。本展でMANTLEが発表した新作《simulation #7-The Thunderbolt Odyssey Part1》(2025)は、様々な神話や芸術で扱われてきた「雷」をテーマにした映像作品だ。実際の落雷データを反映し、都市に雷が落ちるとそこから様々なものが立ち上がっていく映像は、いまも人間の力が遠く及ばない自然の力が何かを生み出す原動力になることを示唆する。

展示風景より、MANTLE《simulation #7-The Thunderbolt Odyssey Part1》(2025)

 Chim↑Pom from Smappa!Groupは、以前から交流を深めていたというミュージシャンの小室哲哉と初のコラボレーション作品《SUN》(2025)を発表した。Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバーであるエリイが自身の出産経験をもとに綴ったテキストにインスピレーションを受け、小室哲哉がサウンドを制作。これに合わせた演者ふたりによるパフォーマンスを主軸としたインスタレーションとなっている。

展示風景より、Chim↑Pom from Smappa!Group✕ 小室哲哉《SUN》(2025)

「MEET YOUR ARTISTS」

 国内外で活躍するアーティスト約70名による300点以上の作品を展示販売するアートフェア「MEET YOUR ARTISTS」はB&C HALLで開催。「日本の美意識」をテーマにしたエキシビションエリアや、領域横断のコラボレーションで構成される「CROSSOVER」エリアも設計されている。

「MEET YOUR ARTISTS」

 出展アーティストは、石塚源太、市川大翔、吳瑋瑩 (スタジオ銀月)、WALLER KAMI、小笠原周、岡田菜美、小津航(スタジオ航大)、兼子真一、神出謙、Keeenue、澤田光琉(スタジオ銀月)、品川はるな、篠田桃紅、白石効栽(スタジオ銀月)、高尾岳央(スタジオ銀月)、髙橋穣、高山夏希、谷口正造、團上祐志、ツダハルト、TYM344、手塚愛子、寺尾瑠生、テラダヒデジ、東城信之介、長島伊織、Nelson Hor、vug、長谷川彰宏、長谷川寛示、長谷川由貴、BABU、平尾成志、藤本純輝、前田紗希、増田将大(スタジオ航大)、桝本佳子、松井照太、松浦美桜香、みょうじなまえ、本岡景太、山田康平、山本れいら、やんツーほか。

「MEET YOUR ARTISTS」

 このほか、マーケットエリア「SUPER ART&CRAFT MARKET」ではビームスクリエイティブと共同で企画・キュレーションを実施。90以上のクリエイターやブランド、店舗が一堂に会する。また、運河に浮かぶ船上ステージでは国内外のミュージシャンやDJによるパフォーマンスを、MYAFならではの特別な演出やコラボレーション、セットリストで連日開催する。

船上ステージ