「アートサイト名古屋城2025」開幕レポート。1/1で「再現」する本丸御殿
2023年よりスタートした、名古屋城を舞台にしたアートプロジェクト「アートサイト名古屋城」が、今年3回目の開催を迎えた。

2023年よりスタートした、名古屋城を舞台にしたアートプロジェクト「アートサイト名古屋城」が、今年3回目の開催を迎えた。キュレーターは服部浩之。
アートサイト名古屋城は、名古屋城が取り組んでいる「保存・活用」に着目するプロジェクトで、2023年には「保存」活動に着目し「想像の復元」というテーマのもと、名古屋城の復元作業に着想を得た作品群を展開。また24年には「活用」に力点を置き、民俗学者・宮本常一を旅の達人ととらえ、「あるくみるきく」を出発点として、江戸時代から現代まで多彩なアーティストによる旅の表現を紹介した。
3年目となる今回は再び「保存」に注目し、「結構のテクトニクス」をテーマに掲げた。「テクトニクス」とは、一般的には「構築術(基礎の構えから始めて全体を築く技)」を意味する建築用語であり、素材や構造、技術をふまえた意匠の美しさを読み取る視点を指している。本テーマの「結構のテクトニクス」は、ここに家屋の構造物に由来する「結構」(善美を尽くして物をつくるという意味)を重ねることで、名古屋城が培ってきた技術と美意識に焦点を当てようというものだ。

会場は、本丸御殿や天守閣の北西に設けられた曲輪である「御深井丸(おふけまる)」。ここに、フレスコ画を中心に古典から現代まで様々な描画技法を探求してきた川田知志が、本丸御殿の構造を1/1スケールで重ね合わせ、大規模なインスタレーションを構築した。
そもそも名古屋城本丸御殿は、徳川家康の命によって1615年に建てられ、1930年には城郭として初めて国宝に指定されたものの、1945年の空襲で消失。2018年に復元が完了した経緯を持つ。
今回、川田は本丸御殿の構造や装飾をリサーチ。障壁画と同じ場所に、作品を立ち上げた。微妙な高低差も、実際の本丸御殿における障壁画の高さを反映している。

これらは京丹後のスタジオの壁で描いたフレスコ画を、「ストラッポ」という描画層のみを壁から剥ぎ取る技法を用いて名古屋城に運び、柔らかな布(寒冷紗)に貼り付けられた。それぞれに描かれた絵は、本丸御殿の各部屋に描かれた障壁画を参照して生まれたもので、狩野派が描いた豪華絢爛な障壁画が時を超え、新たなイメージとして立ち上がっている。


およそ400年前にゼロから築城に関わった人々と同じように、土地と対話し、新たな本丸御殿を生み出した川田。この作品を見た後に、ぜひ現在の本丸御殿にも足を運んでほしい。