2025.11.7

「alter. 2025, Tokyo」(日本橋三井ホール)レポート。現代社会におけるプロダクトデザインの価値を問い直す

日本のプロダクトデザインに革新を促すイベント「alter. 2025, Tokyo」が、日本橋三井ホールでスタート。初開催となる同イベントの様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京・日本橋三井ホールで、次世代を担う多様な分野のクリエイターによるプロトタイピングやコラボレーションを促進し、オルタナティブなプロダクトデザインの在り方を提示する実験的デザインイベント「alter. 2025, Tokyo」が開幕した。会期は11月9日まで。

展示風景より

 同イベントの企画背景には、「日本のものづくり(プロダクトデザイン)にいかにして革新をもたらすか」という課題意識がある。というのも、プロトタイプ制作にかかるコストが大きなハードルとなっており、現状ではデザイナーたちが受注案件に追われるあまり、新しいアイデアを生み出しにくくなっているといった実情があるからだ。

 alter. では、こうした状況を打破するため、グローバルなデザインシーンを牽引するコミッティメンバーによって選抜された11組・計59名のクリエイターに対し、最大300万円の助成を実施。通常では実現が難しい独創的なアイデアのプロトタイプ化を支援し、展示・紹介することで、日本のプロダクトデザインに新たな革新を促すことを試みている。

展示風景より、メイン会場

 メイン会場では、出展者がプロダクト作品の展示に加え、自らプレゼンテーションも手がけている。ここでは、そのいくつかを紹介したい。

 例えば、入口近くで展示されている「ALL CLAMP」では、新たに開発したクランプを用いてプロダクトを提案している。従来のクランプが持つ機能の可能性を拡張する試みであり、独自のシステムによって素材同士の新たな接続を実現し、新しいプロダクトを生み出している点が興味深い。

展示風景より、「ALL CLAMP」
展示風景より、「ALL CLAMP」

 同じく入口付近で展示されている「packing list」は、輸送のための梱包方法に着目し、その要素をプロダクトに落とし込むことを試みている。ポリエステル製のロープでパーツを固定し、それらによって構成された椅子や照明などの家具を提案。そのユニークな造形やアウトラインは美しく、座った感触も心地よい。

展示風景より、「packing list」
展示風景より、「packing list」

 アーティストの河野未彩と玉山拓郎がタッグを組んだ「Product and Space」は、モジュールを自由に組み合わせることで生み出される、プロダクトとインスタレーションのあわいに立ち上がる光の構造体を発表した。室内照明としての機能にとどまらず、空間演出の可能性も示す提案となっている。

展示風景より、「Product and Space」
展示風景より、「Product and Space」

 ほかにもメイン会場では、伝統的な技術に見られる形や素材、機能の可能性を再解釈した提案や、人々の日常にあるストーリーや風景をプロダクトへと落とし込もうとするプロトタイプの展示も見られ、全体として意欲的で見応えのある構成となっている。大量生産された画一的なプロダクトがあふれる今日において、「こんなデザインが身の回りにあったら」と想像するのも楽しい。

展示風景より、「HAMA Reimagined」
展示風景より、「Unseen Objects」
展示風景より、「POETIC PROTOTYPING -Forms of Invisibility-」
展示風景より、「POETIC PROTOTYPING -Forms of Invisibility-」

 また、同イベントで注目したいもうひとつのエリアが「say hi to_ Curation」だ。alter. の選考時に浮かび上がった課題は、ものづくりの革新性のみにとどまらず、業界におけるジェンダーバランスの問題にも及んでいた。実際、選出されたクリエイターの多くは男性である。

 このエリアでは、コミッティーメンバーのひとりであるクリスティンがキュレーションを担当し、日本人女性クリエイター2名のプロダクトを展示している。今回の展示については、展示場所の在り方に一部疑問が残るものの、プロダクトデザイン業界におけるこうした不均衡に目を向けながら企画が進められていることを示唆する取り組みだと感じた。

展示風景より、「say hi to_ Curation」
オープニングトークの様子。コミッティメンバーは左から、Olivier Zeitoun(Centre Pompidou)、Kristen de La Vallière(say hi to_)、Tanja Hwang(MoMA)、中村圭佑(DAIKEI MILLS) ※Andrea Trimarchi / Simone Farresin(FormaFantasma)は欠席