EXHIBITIONS

アーティストとひらく

戸田沙也加展 沈黙と花

2025.06.28 - 11.03

戸田沙也加 沈黙と花 2025 発色現像方式印画 作家蔵

 横浜美術館で「アーティストとひらく 戸田沙也加展 沈黙と花」が開催されている。

 戦後80年を迎える2025年、同館では、アーティスト・戸田沙也加(1988〜)とともに、いまなお人々にとって大きな課題であり続ける争いや共生の可能性について考える小企画展を開催。

 1945年の夏、原爆投下により焦土と化した広島は、「今後75年間は草木が生えない」と言われた。しかし、それから約1ヶ月後の9月、爆心地から約800メートル離れた場所でカンナの花が咲く姿が見つかる。カンナは、真夏の炎天下に大きな葉のあいだから鮮やかな花を咲かせる中南米原産の花である。当時、朝日新聞のカメラマンであった松本栄一は、このカンナの花を広島で撮影。その写真は戦後、広島平和記念資料館において希望のシンボルとして語られるようになった。

 本展の出展作家である戸田沙也加は、画家としてキャリアをスタートさせるが、近年は写真や映像インスタレーションなどの技法を使い、その世界観を表現している。戸田は、コロナ禍の2021年より、カンナの花と、ロシアから日本に移住した友人をモチーフに作品を制作してきた。このふたつのモチーフは、作家がいまの日本で「平和」や「異なる地から海を越えてこの島国に根付き自生するもの」を考えるきっかけになったという。

 2025年現在、世界は冷戦やコロナ禍を経て、新たな対立、紛争に直面している。本展で戸田は、横浜美術館コレクションのなかから、ふたりの画家の作品に着目した。ひとりは、北海道に生まれ、戦前に東京で美術文化協会に参加した後、戦地へと招集された画家・小川原脩だ。もうひとりは、カタルーニャに生まれ、第一次世界大戦、スペイン内戦、第二次世界大戦と、多くの戦争を目の当たりにした画家ジョアン・ミロである。戦争に翻弄されながらも、それぞれの立場と姿勢を貫き作品をつくり続けたふたりの画家に対する思いをもとに、戸田は今回の展示で、カンナの花と、ロシア人の友人を再びモチーフにした新作を発表。

 なお本展は、同時開催のコレクション展「平和であることへの、控えめななにごとかを」と連動するかたちで、コレクション展の1室(ギャラリー5)で開催されている。