アンテプリマが初のアートプライズを開催。香港「CHAT」と協業しテキスタイルアートを支援
日本を代表するファッションブランドのひとつ「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」が、香港のCHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)とともに初の試みとなる「ANTEPRIMA x CHAT Contemporary Textile Art Prize 2024」を立ち上げた。
テキスタイルアートを支援
1993年にスタートし、98年からミラノコレクションに公式参加している日本を代表するファッションブランド「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」。同ブランドが、創業以来初めての試みとして、アートプライズ「ANTEPRIMA x CHAT Contemporary Textile Art Prize 2024」を立ち上げた。
同賞は、⾹港にある複合施設The Mills内のテキスタイル・ヘリテージミュージアムCHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)とのパートナーシップによって、アジアにルーツを持つアーティストが、様々なテキスタイル、技術、テクノロジーを駆使し、現代社会に共鳴するクリエイティブなコンセプトと、先⾒性に富んだアイデアの展開を促進することを⽬的に創設された。
テキスタイルの持つ変⾰⼒を基盤に、とくにアジアの視点から世界的な課題に応答する作品の創出を⽬指しており、賞⾦として30万⾹港ドルを提供。新たな声を世に送り出し、伝統的な価値観を⾒直す機会を促進するとともに、テキスタイルアートの無限の可能性を探求し、新たな視点と未来を切り開くことを⽬指す。
審査員を務めたのは、元テート・モダンのインターナショナルアートキュレーター、アン・コクソン、シャルジャ・アート財団国際プログラム・ディレクター、ジュディス・グリア、メトロポリタン美術館のミン・チュー・シュウ&ダニエル・シュー アジア・アート部⾨アソシエイト・キュレーター、レズリー・マ、メキシコ⾃治⼤学付属現代美術館チーフキュレーター、クアウテモック・メディナ、そしてCHATエグゼクティブ・ディレクター兼チーフ・キュレーターの⾼橋瑞⽊。
受賞作品は巨大な「ティカ」
記念すべき初回の受賞者は、2018年以来、コラボレーションによって作品を制作してきたイー・イラン、ロジア=ビンティ・ジャラリッド、ジュリタ・クリンティンの3人だ。
マレーシアのサバ州出⾝のイーは、植⺠地⽀配の歴史、グローバルなつながり、そして東南アジアの社会政治的ダイナミクスという複雑な問題に深く迫る作品で知られており、南アジア諸島全域で広く使⽤される、“ティカ”と呼ばれる織物のマットに作品の着想を得て、ティカを物語、⾔語、美学、哲学を内包する器ととらえ、独⾃の表現を追求している。
いっぽうジュリタ・クリンティンとロジア=ビンティ・ジャラリッドは、ケニンガウに住むドゥスン・ムルットの内陸コミュニティや、セムポルナに暮らすバジャウの海洋⺠族の織⼯たちを代表しており、イーとともに、先住⺠族の知識を紡ぎながら、持続可能で地域に根差した⼿法で作品を制作している。
受賞作となった《Jalan-Jalan Cari Jalan(道を探して)》(2024)は、ボルネオ島北東部のスールー海と、セレベス海から回収されたプラスチック廃棄物を素材に制作された迷路状のパターンのティカ。この地域は豊かな海洋⽣物多様性で知られるコーラルトライアングルの⼀部でありながら、プラスチック汚染にさらされている。作品の縦⽷と横⽷には、地元コミュニティがこの差し迫った課題に向き合い、交錯する様々な影響の迷路を切り開き、道を探る姿が迷路状のパターンとなって織り込まれている。
今回の受賞について、イー・イラン、ロジア=ビンティ・ジャラリッド、ジュリタ・クリンティンは次のようなコメントを寄せている。「ほかのアーティストの⽅々と並んでこの場にいることを⼤変光栄に思います。まず第⼀に、私たちのコラボレーターの皆様に感謝を申し上げます。2018年からともに活動してきました。そして、セムポルナ、ケニンガウ、コタキナバルにいる私たちの地元のコミュニティや織⼯の皆様にも⼼から感謝しています。また、この場を設けてくださったCHAT、ANTEPRIMA、審査員の皆様、シルバーレンズ・ギャラリーにも感謝いたします。私たちにとって、テキスタイルは魔法のような存在です。マットはまるで空⾶ぶじゅうたんやポータルのように、別世界へと私たちを誘ってくれます。だからこそ、テキスタイルには⼤きな⼒があります。それは多くの知識やアイデアへの扉を開いてくれるものなのです。CHATでの展⽰は、テキスタイルがいかに豊かなものであるかを物語っています。この約7年間は⻑い道のりでしたが、⾮常に実り多い時間でもありました」。
また審査員は、本作をこう評価する。「イー・イラン、ロジア=ビンティ・ジャラリッド、ジュリタ・クリンティンの作品は、⻑期にわたる社会的な協働と卓越した技術的成果、そしてテキスタイルにおける⾰新との⾒事な相乗効果を実現しています。また、ギャラリーでの展⽰も、プロジェクトの複雑性をさらに広げた美しいインスタレーションとして⾼く評価します。彼⼥たちの作品は、過去を再考し、それを社会的、経済的、美的な観点から異なる未来へと昇華させる、深い関与と喜びに満ちたコミュニティ活動の結晶と⾔えます。さらに、シャオ・チュンにも特別賞を贈ります。彼⼥のテキスタイルに対する卓越した芸術的発明、そして素材の持つ⼒やその想像的な可能性への理解は特筆すべきものです」。
ANTEPRIMA x CHAT Contemporary Textile ArtPrizeの今後
⾼橋瑞⽊は本賞を振り返り、こう述べる。「すべてのファイナリストがそれぞれの⽂化遺産、歴史や伝統に基づきながらも今⽇の喫緊の課題に取り組む⼒強い作品を発表してくれたことに感動しています。受賞者を選ぶのは容易ではありませんでしたが、記念すべき初回の賞をイー・イラン、ロジア=ビンティ・ジャラリッド、ジュリタ・クリンティンによるテキスタイルアートの新しい次元を開拓する素晴らしい可能性を秘めた活動に授与することができたことを⼤変嬉しく思っています」。
またアンテプリマ創設者でクリエイティブ・ディレクターを務める荻野いづみは、「芸術的な⾰新と創造性の⼒を称えるANTEPRIMA x CHAT Contemporary Textile ArtPrizeの成功を振り返り、⼤変嬉しく思います」としつつ、その意義を次のように強調する。「参加アーティストたちの卓越した才能を⽬の当たりにし、それぞれの独⾃の視点を共有できるよう⽀援できたことは、光栄な経験でした。ファイナリストに選ばれたアーティストたちは、⾃⼰表現と物語を紡ぐ媒体としてのファッションとテキスタイルの可能性を⾒事に⽰してくれました。彼らの⾰新的な作品は、アートとテキスタイルの境界を押し広げ、業界に不朽の⾜跡を残しています。これからも彼らの旅路を⾒守り続けたいと思います」。
アートを創造の源泉とする荻野が今回のようなアートプライズを創設したことはごく自然な流れと言えるだろう。アンテプリマが今後、ますますアート界に対するコミットメントを強めていくであろうことに、期待が高まるばかりだ。
なお、ファイナリストによる展覧会はCHATにて2025年2月23日まで開催中。会期中には来場者による「観客賞」の投票も⾏われ、結果は2025年3⽉3⽇に発表される。