2024.12.17

「MOTコレクション」展(東京都現代美術館)開幕レポート。イケムラレイコやマーク・マンダースの作品が示す現代美術の深層

東京都現代美術館(MOT)の「MOT コレクション」展は、戦後美術を中心に、現代美術の多様な魅力を紹介する展覧会。今回は、1階と3階の展示で、女性作家や新たに収蔵されたイケムラレイコ、マーク・マンダースの特別展示が行われ、光と闇、時間というテーマを深く掘り下げた作品が並んでいる。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、左からマーク・マンダース《椅子の上の乾いた像》《椅子の上の像》(いずれも2011-15)
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 戦後美術を中心に、近代から現代に至るまでの約5800点の作品を収蔵している東京都現代美術館(MOT)。この広範なコレクションをもとに、定期的に開催されている「MOTコレクション」展の最新版が始まった。会期は2025年3月30日まで。

 今回の「MOT コレクション 竹林之七妍/小さな光/開館30周年記念プレ企画 イケムラレイコ マーク・マンダース Rising Light/Frozen Moment」は、1階と3階の合計3つの展示室で構成されている。

 1階では「竹林之七妍」というテーマで、7人の女性作家に焦点を当てた展示が前会期から引き続き行われている。このタイトルは、古代中国の7人の賢者が竹林に集まり清談を交わす様子を7人の女性に変えて描いた、同館所蔵の河野通勢の作品名に由来し、女性作家に焦点を当てた展示へと昇華されている。

「竹林之七妍」の展示風景より

 展示では、生誕100年を迎えた間所(芥川)紗織、高木敏子をはじめ、朝倉摂、福島秀子、そして新たに収蔵された漆原英子、小林ドンゲ、前本彰子の作品が展示。一部の作品は前会期から展示替えしており、これらの作家たちが表現した、時代や文化を超えた視点は、現代美術における女性作家の重要な位置を再確認させてくれる。

「竹林之七妍」の展示風景より

 また1階では「小さな光」という小企画も開催。2020年に同館で個展を開催し、近年収蔵になったオラファー・エリアソンの作品を中心に展示されている。加えて、北代省三や、コレクション展では初めて展示される山本高之の映像作品も見ることができる。

「小さな光」の展示風景より、オラファー・エリアソン《人間を超えたレゾネーター》(2019)

 そして、3階では新たに収蔵されたイケムラレイコと、2021年の個展の際に来日が叶わなかったマーク・マンダースの特別展示を含む「開館 30 周年記念プレ企画 イケムラレイコ マーク・マンダース Rising Light / Frozen Moment」が行われている。

展示風景より、イケムラレイコの作品群

 イケムラレイコは、1970年代にヨーロッパに渡り、80年代から絵画、彫刻、ドローイング、写真、映像など、幅広いメディアを用いて作品を制作してきた。その作品は、光と闇、生命の生成と変化をテーマにしており、深い精神性を称える表現が特徴的だ。本展では、2022年に同館が収蔵した《Rising Light》《Out of Black》という絵画や、コロナ禍にスタジオで制作されたガラス彫刻などが展示されており、イケムラの作品に込められた深い精神性と社会への洞察を感じ取ることができる。

展示風景より、左からイケムラレイコ《Rising Light》(2022)、《Out of Black》(2020)
展示風景より、イケムラレイコの作品群

 加えて、イケムラのスタジオから貸し出されたテラコッタの彫刻やドローイングも展示されており、戦後の日本の版画家である駒井哲郎や浜田知明の作品もあわせて紹介されている。これらの作品群を通じて、光と闇に対する各作家の異なるアプローチを楽しむことができる。

展示風景より、イケムラレイコのドローイング作品群
展示風景より、イケムラレイコの作品群

 イケムラレイコの展示を担当した水田有子は次のように述べている。「イケムラさんの作品は、社会や生命に対する深い洞察を表現しており、とくに現在の不安定な社会状況に対して、希望を生み出す作品が並んでいます。来年は当館の開館30周年を迎え、戦後80年という節目の年でもあるため、この展示は特別な意味を持っています」。

 いっぽう、マーク・マンダースは、言葉や言語、詩に対する関心を基盤に、立体作品や書籍、インスタレーションなどを通じて時間というテーマを問いかける作品を発表してきた。その作品は、時間が凍結したかような張り詰めた空間をつくり出し、観る者に不安定な感覚をもたらす。

展示風景より、左からマーク・マンダース《椅子の上の像》《椅子の上の乾いた像》(いずれも2011-15)

 本展では、2体の像が鋼のタイルのうえに対峙するかたちで展示されている。ひとつは、同館所蔵の《椅子の上の乾いた像》(2011-15)で、タイトルが示す通り、椅子に置かれた乾燥してひび割れた像が特徴的。もうひとつの《椅子の上の像》(2011-15)は、完成したばかりのように見え、粘土の少し湿った質感が印象的だ。

展示風景より、マーク・マンダース《椅子の上の乾いた像》(2011-15)
展示風景より、マーク・マンダース《椅子の上の像》(2011-15)

 両方の像の目は伏せられ、まるで独自の世界に浸っているかのように見える。鋼のタイルは、マンダースが高校生の頃に感銘を受けたというカール・アンドレの作品に影響を受けており、その影響がマンダースの作品にどのように反映されているのかを感じ取ることができる。また、本展では、マンダースの作品に見られる要素を手がかりに、グリッドや時系列反復といったテーマを扱ったアグネス・マーティンやドナルド・ジャッドの作品もあわせて展示されている。

 マンダースの展示を担当した鎮西芳美はこう述べている。「過去に展示した《椅子の上の乾いた像》と同じ作品でも、配置や文脈によってまったく異なる緊張感や感覚が生まれることを感じていただけるでしょう。作品が持つ力強い魅力が、文脈によって異なる意味やストーリーを生み出す点が非常に魅力的です。今回の展示では、その点をぜひ感じ取っていただきたいと思います」。 

 東京都現代美術館の収蔵品を中心に、現代美術の多様性を表現する企画となる「MOTコレクション」。ぜひ今回の展覧会を通じ、光と闇、時間などをテーマにした様々な表現に向き合ってほしい。