禅の思想に呼応する現代のアートとニューロミュージック。鎌倉・建長寺で「ZEN NIGHT WALK KAMAKURA」が開催
鎌倉にある建長寺で、秋の紅葉をテーマにしたプレミアム夜間拝観イベント「ZEN NIGHT WALK KAMAKURA」が開催されている。本イベントは、臨済禅の思想と空間を、先進的なアートとニューロミュージックによって再解釈するアートプログラムだ。会期は12月7日まで。

鎌倉にある建長寺で、秋の紅葉をテーマにしたプレミアム夜間拝観イベント「ZEN NIGHT WALK KAMAKURA」が開催されている。日本最古の本格禅道場である建長寺を舞台とする本イベントは、臨済禅の思想と空間を、先進的なアートとニューロミュージックによって再解釈する新しいアートプログラムだ。会期は12月7日まで。
会場のひとつである法堂には、画家・小泉淳作(1924〜2012)が壮大な龍の姿を描いた天井画《雲龍図》がある。小泉は、戦後の混乱期を経て独学で絵画を学び、臨済宗の京都・建仁寺にも天井画《双龍図》を奉納したことで知られる。

この小泉の天井画に対して「かさね」「うつし」「なぞらえ」といった日本古来の美意識をもって現代的な解釈と継承を試みたのが、アーティストの脇田玲だ。脇田は慶應義塾大学教授として、非線形物理システムや流体力学のシミュレーションのソフトウェア開発に取り組む研究者でもある。建仁寺《双龍図》に応答する前作《龍雨図》(2024年)に続き、サイエンスとアートを交差するオーディオビジュアルインスタレーション《龍雲図》を手がけた。本作は、仏法の雨を降らせるという龍への精神性になぞらえながら、雨や風、雲の動きといった自然現象を、光と粒子によって複層的にシミュレーションし、現代の日本画として表現したものである。

また本作には、ヴィー株式会社(以下、VIE)とのコラボレーションとして、ガンマ波を扱うニューロミュージック(*)が取り入れられている。雨や雷のサンプリング音や太鼓、シンセサイザーの音にガンマ波を組み込み、光と音、そして身体が共鳴するインスタレーション空間がつくり上げられた。
脇田は本作について以下のように語る。
「西洋的な自己表現としてのアートではなく、仏教が伝える“大我”としての自然や地球の流れを描くこと。それが現代における“うつし”の意味だととらえています。自分という存在──“小我”を消したうえで、自然の運動を、そして世界を見つめる。そうでなければ恥ずかしいとすら思う感情が、《双龍図》や《雲龍図》を仰ぐなかで湧き上がってきたのです。そのような態度のもと、現代の情報技術をもって世界を記述することが、小泉氏への応答としてのアートに帰結しました」。
テクノロジーを扱う脇田にとって、コーディングは、墨と筆に代わって世界を描き出す行為であり、同時に小我を捨てて自然と一体になる禅の実践でもあった。制作の過程では法堂を何度も訪れ、そのたびに無我の境地へと近づいていく感覚を得たという。



*──ニューロミュージックとは、脳のリズムに変化をもたらすことが科学的に立証された音楽。集中や瞑想、リラクゼーションといった意識状態を聴き手に誘発する効果がある。なかでもガンマ波は、記憶の想起や感覚情報の統合など、脳が高度な情報処理を行う場面で顕著に現れる高周波とされる。



















